2005年5月3日火曜日

岡本かの子 ~共感した名文・名文句~

岡本太郎の母、という方がとおりが良くても、その息子以上に波瀾万丈の人生を生きた革新的女性は、深い大乗仏教徒でもありました。現代の我々からみても、遠く足許にも及ばない偉大な明治生まれ女性がここにもいたという事実に敬服するとともに、戦前日本人の精神世界の深さと頭脳に触れると、改めて現代人の堕落と人間力の低下に暗澹たる気持ちにならざるを得ません。


  • 仏教聖典を語る/潮文社
  • 因果律の平等なる支配により偶然は存在しない「生命は絶対に自在である。そしてその自在さのままで物とも現れ宇宙間万物を形作っている。このことを仏教の述語では物心一如といいます。(略)
    自在に堪えている何にでも平等に行きわたっている筈の生命がどうして一々の形を取るのであろうか。差別の個性を帯びてくるのであろうか。このことは仏教の方で最も大事なことであります。(略)
    これは
    因果律の支配を受ける為です。そのものになる原因があり、これを助成する縁があって、その結果、そういう特色になって現れるのです。(略)
    この見方からすればどんな瑣末な物事でもその歴史となる因と縁とを排する訳にはいかない。
    世の中に何一つ偶然ということはないのであります。」
  • 世のすべてにおいて、自分と無関係な物は存在しない
    「一つの物事は、宇宙の物事といつも互いに影響し合っている。ただわれわれ人間の洞察力ではその実に何十億分の一しか見えないだけであります。これが華厳経で説明する宇宙の生命の網であります。このことは何を教えるのでしょうか。善にまれ悪にまれすべての物事が自分にも関係がありとするなら総ての物事に対して自分も一分の責任がある。おろそかには出来ない。善に対してはいよいよ助力を惜しむことなく、悪に対してはただ無闇に憎しみ捨てず、自分の一分としてその矯正に努力する。」
  • 岡本流法華経の位置づけ
    「仏教の思想とて一時に完全に出来上ったとはいえないのであります。時にはあまりに冷たい思索に入り込みすぎ人間を化石にしてしまいそうな経文もあります。または、あまりに人情におもねり過ぎ甘い未来偏重の極楽思想で人間の現実生活の価値を捨ててしまうおそれのある経典もあります。かくてさまざまの思索と体験の矛盾に打突かったあと、要するに人間が人間であってみれば、人間中心の現実に踵をちゃんとつけた
    当面の生活に生活の意義を十分置く思想でなければ人間用の思想ではないということに気づき、ここに完成されたのが法華経であります。何といっても仏教では中心となる思想ですから、どの宗派でも多少この思想を取り入れない仏教宗派はなく、ただ以上のような理由からまともにこの思想を振りかざしていくのを敬遠しているだけです。法華経そのものは大文学であって規模の大きいこと、組み立ての複雑なこと、戯曲的であって色彩の華やかな事実で素人には中々要領が掴み悪うございます。」
  • 生死(しょうじ)の問題
    「われわれ生物は母の胎内に宿ったときが生の始め、肉体の生理的機能が泊まって再びとは働かぬ時が生の終わり、すなわち死とみておるようであります。しかし事実そうでありましょうか。われわれを形作っている物質方面の筋道をすこし手繰ってみましても、われわれが母の胎内に宿る前は、両親の肉体の細胞であり、その細胞はまた両親の両親から伝えられた細胞が栄養をとって増やした仲間の細胞であります。殖えた細胞の元となった栄養物といえば皆、体外の物質であります。(略)
    こうして調べてみますと、
    われわれの生の始まりに物質的方面だけでも、いくらでも過去に遡ることが出来、大げさにいえば我々の肉体は神代の瑞穂の稲からできているといっても理は通らないことはありません。(略)
    物質不滅の法則によって、生れたといってこの世界に水素、一原子、減りもせず、死んだといって酸素、一原子、増しもせずただ形を変えるだけの話です。」
  • 一切衆生悉有仏性
    「この言葉は涅槃経にありまして、涅槃の獅子吼説といって、大乗仏教のもっとも円熟した思想の表現された言葉です。くだいて申しますと、この世の中の人間は、一人残らず円満無欠の人格者になる素質を絶対に備えているのだということです。つまり満点の幸福に与る予備資格は必ず持っているのだということです。たださしあたりそうでないのは迷いがあり、修養が足りないからです。(略)
    仏教におけるこの言葉は、
    理智が卓越しており、直感の鋭い釈尊並びにその後継者が身命をかけて哲学し、究理し、全直覚を働かせて捉えた人類の素質の真髄ですから絶対的なものです。外れっこないはずです。ただその結果が現れるのには、人々の修養の程度、因縁の厚薄によって時間的に差ができるだけです。」

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